この絵は、「唇」というタイトルです。

 いよいよ濃さをパワーアップさせて参りました。という感じですね。今回もテーマの強い絵ですが。

 この唇。別に誰かの唇というわけではなく、一般論的なお話です。一番上に描かれている淡い色の舌。これは若さを現します。若いときのキス。それは淡い初キスの思い出です。そこに味はありません。あるのは、キスをしたという事実と想いだけです。したがって、淡い。キスの充実さがないのです。また、若いうちは愛もまた未熟です。それがこのような色に現れているのです。

 二段目の塗られた舌。塗ることにより、充実さを出しています。愛を受け、愛を与え。愛し合うことの喜びを、十分に色で塗り尽くすことで表します。

 三段目の色落ちした舌。これはキスの感覚の忘却を示します。歳を取り、キスを愛の交換要素として必要としなくなった状態を示します。キスは遠い昔となり、要らない関係になった人間たち。そんな様子を描きます。

 今回のテーマは従って”老いによる愛の成長”というものです。具象を必要とせず、抽象を愛の形としていくことに愛の成長を示しているのです。